大学在学中の19歳の時に起業を果たした龍崎翔子さん。ホテルプロデューサーとして、自社でのホテル運営や、他社のホテルのアドバイザリーなどに取り組まれています。
龍崎さんがホテル経営者を目指し始めたのは小学生の頃。子どもの頃に抱いた目標からぶれずに、ホテルと向き合ってきた龍崎さんはどんな変化を歩んできたのでしょうか?そして、経営者というプレッシャーも大きな立場においてどんな風に壁を超えてきたのか?常に新しい目標に向かって邁進し続ける龍崎さんの変化についてお聞きしました。
―龍崎さんが、ホテル経営をしてみたいと思ったのにはどんなきっかけがあったのでしょうか?
1番初めのきっかけは、小学2年生のときです。家族で半年アメリカに住んでいて、日本に戻る前に最後の1か月間を家族でアメリカ横断ドライブすることになったんです。でも、当時は子どもだったので1日何時間も車に乗り続けるのが退屈で、夜泊まるホテルだけが楽しみでした。
ただ、いざホテルに着いて客室のドアを開けてみると、昨日のホテルとも、一昨日のホテルとも変わらない景色ばかりだったんです。なんなら、日本で泊まったホテルともあまり変わらないなと、子どもながらに違和感を感じていました。もっとその土地ごとの空気感を感じられるホテルがあったらいいのになと思ったのが原体験です。
その後、10歳くらいの時に読んだ『ズッコケ三人組ハワイに行く』の中に、ホテルの経営者が登場人物として出てきたんです。それを見たときに、自分がしたかったのはこういうことかと感じて、そこからホテル経営者になりたいと思うようになりました。
―子どもの頃に抱いた「将来の夢」は成長につれて変わる人も多いと思うのですが、龍崎さんは変わらなかったんですね。
私の場合は「夢」というより「課題感」とか「目標」みたいな感じだったんですよね。自分がやらないと、自分が泊まりたいホテルは世の中に生まれないなと思っていて。その気持ちがずっと変わらなかったし、今もそんなに変わっていないんだと思います。
―その後、19歳の時に起業されているかと思いますが、10代での起業はもともと決められていたのでしょうか?
高校生の途中くらいまでは、大学院まで卒業してからホテルを始めようと思っていました。でも、私が高校2年生の時に、2020年に東京オリンピックが開催されることが決まったんです。そうなると、2020年に向けてホテルはどんどんと増えますよね。私は大学を2018年に卒業する予定だったので、大学院を卒業してからだと、マーケットの流れに遅れてしまうと思いました。なので、可能な限り早く始めるために、大学生のうちに起業することにしました。
―起業してから8年が経ちましたが、どんな変化や発見がありましたか?
起業したての頃は、とにかくホテルを増やしていくことを目標にしていました。でも、ホテルを始めて3年〜5年ぐらい経ったときには、「自分たちはホテルだけじゃないこともできるんだぞ」と考えるようになっていました。ホテルだけではなく、プロダクトを作ったり通販をやったり、色々な業態を試しました。
けれど、最近は1周回って、「ホテルの会社」としてやっていこうと思うようになりました。色々とやってみた結果、ホテル以外のことは自分たちじゃなくてもできるし、そんなに自分たちが頑張らなくてもいいのでは、と気づきました。自分たちの位置付けをあえて狭めて、もっとホテルの可能性を探求していくことに力を入れたいなと思うようになりました。
―ホテルをはじめとする宿泊業は特に、新型コロナウイルスの影響も大きかったのではないでしょうか。コロナ禍でも何か変化はありましたか?
コロナ前は、自分の力でどこまでいけるかに意識がいっていたと思います。でも、コロナ禍に入って自分の頑張りが全然報われない状況に陥ったんですよね。そんな中で、ホテル業以外の事業で売り上げを支えようとした時に、新しいことに挑戦するのになかなかチームがうまく機能しないことがあって。せっかくチームでやっているのに、みんながそれぞれの能力を最大限発揮できないことに苦しさを感じるようになりました。
そこで初めて、自分の力だけじゃなくて、組織みんなの力を引き出しながら事業を作っていくことに強い関心を抱くようになりました。切り込み隊長をするのも私の役割の一つだと思うのですが、DJのようにチームみんなのボルテージを上げていくのも自分の役割だと思えるようになりました。自分にとってはすごく良い変化だったと思います。
そして、それは自社だけではなくて他のホテル事業者や、自治体などを巻き込むことにも繋がっていきました。コロナ期間中は特に、自社だけでなく業界全体・社会全体が共通の課題にぶち当たることが多くなっていましたよね。自分たちももちろんその渦中にいたので、他の方とも連帯していこうと考えるようになりました。
―最近では、「産後ケアリゾート」など、新しいスタイルのホテルにも取り組まれていますよね。
そうですね。宿泊業って一般的には観光市場に付随している産業であると思われがちです。ホテル業界の自己認知としても、割とそうだと思います。でも、私はそれってすごくもったいないなと思っています。
ホテルは旅行や出張の時に寝る場所としてだけではなく、もっと本質的に人々の生活の中で、自宅でできないことをできる場所と捉えることができるんじゃないでしょうか。その延長線上で、産後ケアリゾートのように、社会課題を解決する一助になり得るポテンシャルを持っていると思っています。ホテルでもっと色んなことができると思うので、その可能性を探求したいなと考えています。
―起業した時はもちろん、起業後も常に新しいことに取り組まれたりと、様々な壁を乗り越えられてきたかと思います。大きな変化を迎える時はどんな風に心構えされていますか?
自分の前に壁があることは大した苦じゃないんです。「ここが壁だな」とか「この壁を乗り越えたらこういう景色だろうな」とわかっていたら、登り方を考えるだけじゃないですか。
どちらかというと、何をしたらいいかわからない時が1番辛いです。「登った先が見えないのに登らないといけないかもしれない」「登りたいのかもよくわからない」。そういう時が一番辛いと思います。例えば私は、起業前にホテルの仕事をしたいという漠然とした目標はあるけれど、「どうやっていいのかわからない」「自分にホテルなんて無理なのでは」と思っていた時期は何をやってもうまくいかなくて辛かったです。
でも、自分が何をやっていくべきなのかフォーカスを絞れたことで心の迷いが晴れたような気がします。絞り込む時は、意外と運と縁と直感が大事だと思います。最後は自分が決められるかどうか、だと思うので絞り込むのに必要な材料が揃ったら、もう決心して壁を登るしかないなと思うようにしています。
―龍崎さんご自身の暮らしや在り方には、起業後8年でどんな変化がありましたか?
あまり自分の生活を優先してないっていうことにおいては、一貫しているなと思います(笑)。それを良しとするかどうかは人それぞれだと思うのですが、私は仕事と生活が不可分になっているのも、嫌じゃないんです。
でも、思い返すと昔はもっと禁欲的だったような気もします。ホテルは365日24時、誰かが働いているので、いつ何があってもいいように常に待機していなきゃみたいな気持ちがあったんです。一方で最近は、私自身がホテルの消費者としての感覚を持っているのもすごく大事だなと思えるようになってきました。なので、これまでの私だったら躊躇するような体験に対しても、思い切って時間をとって踏み切れるようになったと思います。
―基本的には、毎日忙しい日々かと思いますが、そんな中でどうやってリラックスしたりリフレッシュしたりする時間をとっていますか?
普通にベッドでゴロゴロしたりしていますよ。あとは、美容室に行って髪型を変えるのもリフレッシュの一つかもしれません。「疲れたな〜」と感じた時に、時間を見つけて美容室に行って、気持ちを変えるためにカットしたりカラーリングしたりすることはあります。
―これまで様々な変化を経験されてきたかと思いますが、龍崎さんにとって「変化」とはどんなものですか?
変わっていくことは面白いなと思いますね。今まで似合っていた服が急に似合わなくなったりすることってよくあるじゃないですか。昔はTシャツが似合っていたけれど、最近は全然着たいと思わないし、着ても似合わない気がする、みたいなことってありますよね。
1日に0.1ミリだとしても、人は何か変わっていると思います。それが、2年3年と経つと結構大きな違いになっているのは面白いですよね。
―今年のマトメージュのブランドメッセージは「変わることを、恐れない。」なのですがこれを聞いてどう感じましたか?
人が変わる時って、気づいたら変わっていたケースと、すごく勇気を持って変わるケースの両方がありますよね。私はどちらかというと、ずっと走り続けていたら、結果的に変わっていたことが多いタイプです。必死でやっていたら、気づいた時には大幅に方向転換をしていたなんてこともよくあります。
それももちろんいいと思うのですが、自分で勇気を持って変わるタイプの人もすごくかっこいいですよね。私の友人の、塩谷舞さんは勇気を持って積極的に変わっていく人のように見えます。仕事を変えたり、ニューヨークに行ったり、また日本に戻ってきたり…。もしかしたら本人からしたら必然の変化なのかもしれませんが、見ていて勇気をもらえるなと思います。
―最後に、変わりたいと思っているけれどなかなか一歩が踏み出せないという人に向けて、メッセージをお願いします。
Amazonの創業者のジェフ・ベゾスの受け売りですが、「One Way Doorは慎重に、Two Way Door は迅速に」が大事だと思います。One Way Doorというのは一方通行のドアで、やってしまったらもう戻ってこれないものです。Two Way Doorは双方向のドアで、やり直しが効くことを意味しています。
「変化は恐れずに、リスクをとっていこう!」と言いたくなるところですが、私はむやみやたらにリスクを取るべきじゃないと思っています。でも、やってもリスクがあまりなかったり、やり直しが効きそうな変化だったら、ラフに挑戦すればいいと思うんです。もし失敗しても、自分がその変化に挑戦して感じた「何か」があるだけでお土産ができるじゃないですか。それだけでも人生にとって意義のあることだと思います。なのでTwo Way Doorな変化から、積極的にチャレンジしてみるといいのではないでしょうか。