国内外で絶大な人気を誇るロリータファッションモデルでありながら、現役19年目のベテラン看護師でもある青木美沙子さん。2009年には外務省の「かわいい大使」に任命され、25カ国45都市以上の国を歴訪するなど、日本発祥のロリータ文化を世界に発信しつづけています。いくつになっても“等身大のかわいい”を体現している青木さんに、自分の「好き」に従って生きる秘訣を聞きました。
——カリスマロリータモデルとして長年活躍されていますが、ロリータファッションを始めたのはどうしてですか?
学生の頃、ファッション誌の読者モデルにスカウトされて、お仕事で着たのがきっかけです。初めて見たとき、私が思う“かわいい”が爆発していて、衝撃を受けました。
私は小さい頃から、お人形やお姫様に憧れていて。大人になっても、“かわいい”ものへの憧れはずっと変わりませんでした。
ロリータ服を身にまとった瞬間、自分が着せ替え人形になったような気分になって。「大人になってもお姫様になれるんだ」って、恋に落ちた感覚でした。でも今では、ロリータは私にとって“戦闘服”なんです。
——“戦闘服”とはどういうことでしょうか?
ロリータファッションはスカートの下にパニエを履いてフワッとさせるので、下半身のラインがあまり出ないんです。
自分のコンプレックス、例えば、太っている部分とか、アトピーで荒れた肌なども全部隠せる。そういったコンプレックスをどんどん出したほうがいいと言う人たちもいるけれど、私は隠したほうが自信が持てます。
全部隠して自信につなげて、外の世界に出ていく。そういう意味での“戦闘服”ですね。
——青木さんは外務省の「かわいい大使」などの活動を通して海外でも人気が高いですよね。日本と海外で「かわいい」に対する価値観の違いを感じますか?
SNSで同じ投稿をしても、国内外でリアクションは全然違います。海外では「かわいい=派手で目立つもの」。ロリータは“かわいいの最上級”のスタイルとしてとても人気です。
一方、日本だと“かわいい”ロリータが「恥ずかしい」に変わるというか……。ロリータファッションを着ていると「恥ずかしくないの?」「何歳まで着るの?」と、言われることが多い。でも海外だと「可愛ければそれでいいじゃん」と、年齢に対する意見はほとんどありません。
これは海外での活動を通して感じたことですが、日本は“かわいい”ものは、若い子がするもので、大人になったら“かわいい”は捨てるべきだ、というような風潮があるように思います。
——そうした偏見や価値観の違いをぶつけられたとき、どう受け止めていますか。
人の意見に左右されないことを大切にしています。自分の意思を潰して人の意見に流されてしまうと、人生もったいないので。
そうは言っても、私も悩むことはあります。今38歳なのですが、「ロリータファッションを着ているから結婚できないんだよ」とか言われたり、SNSで結婚して幸せそうな人を見ると、結婚がすべてではないと思いつつ、「自分ってこのままでいいのかな」と考えてしまったり。
そんなときには、SNSを閉じて、自分のやりたいことをメモに書き出すようにしています。自分と向き合う時間を意識的に作るんです。
今の日本社会で自分の「好き」を貫いて生きるのには、覚悟が必要だと感じています。多様性が謳われるようになっても、やっぱり女性が向き合わないといけない偏見は根強いから。「こう生きるべき」って強いメッセージが多い世の中だからこそ、自分の本心を見失いがちになってしまいますよね……。
でもやっぱり、「自分の好きなことをやればいい」と信じて生きた方が幸せ。人に迷惑をかけていなければ、世間が決めた枠にはまらなくていいし、自分の生き方をもっと褒めようと思っています。
——年齢を重ねたことで、“かわいい”に対する価値観に変化はありましたか。
私自身はずっと「お人形=かわいい」のまま、ぶれないですね。むしろ、20年間着続けていることでさらに愛が深まりました。私にとってロリータファッションは、自信を与え続けてくれるものです。
でも、変化することが良くないとは私は思いません。私みたいにロリータをずっと着続ける人もいいと思うし、年齢によって「好き」が変化していく人もいてもいいと思うんです。
——自分の「好き」を大切にするためにはどうすればよいでしょうか。
多様な価値観に触れる時間が大切ではないでしょうか。私はロリータの世界だけでなく、看護師の世界や海外の価値観に触れることで、視野が広がったと感じています。いろんな生き方、“かわいい”の形を知ったことで、「自分もこのままでいいじゃん」って肯定してもらった気がして、心が軽くなったんです。
ロリータと看護師、一見全然結びつかないかもしれませんが、「まわりの人を元気にしたい」という私の思いを叶えるものという意味では同じ。ロリータを着ている私も、ナース服を着ている私も、どちらも“私らしい”自分です。
もちろん、私の価値観も押し付けるつもりはありません。ただ、私の生き方を通して「自分の好きとか“かわいい”に素直に生きていいんだよ」って思ってもらえたらいいな。いつか私が“普通”の存在になって、特別なアイコンとして取り上げられない世界になったらいいですね。
——青木さんのヘアスタイルのこだわりは?
お人形に少しでも近づくために欠かせない要素がふたつあって、ひとつはパッツン重め前髪です。眉毛は感情が表れるから、どうしても人間っぽさが出ちゃう。だから目と眉の間のギリギリのラインでカットして眉毛を見せないことで、より“お人形感”が出ると思ってます。
もうひとつは、スーパーロングヘア。ケアはものすごく時間と手間がかかって大変ですが、お人形になるためには欠かせません。
カチューシャやボンネットなどのヘアアイテムをつけることも多いので、いつも何かしらのヘアアレンジをしています。マトメージュのまとめ髪スティックを使えば、風が吹いても動いても、乱れずにずっと“完璧なお人形”のままの姿でいられるので、重宝しています。
——マトメージュの2022年のブランドメッセージ「かわいいを、解放せよ。」に、どのような印象を受けましたか?
「“普通”であれ」「年相応であれ」といった固定観念にとらわれて生きづらさを感じたり、窮屈な思いをしたりしている人を救ってくれるメッセージだなと感じました。
いくつになっても、ママになっても、フリルとかレースいっぱいの服を着ていいし、自由に好きな髪色を楽しめばいい。もっと、あなたが思う“かわいい”に素直に従ってほしい。
「大人だから“かわいい”は卒業しなきゃ」と思っている人に向けた応援歌に聞こえて、勇気が出ました。
——最後に、読者のみなさんに一言お願いします。
もっと自分を愛して、可愛がってあげてほしいですね。それは、外見だけではなく、内面も。私はよく、鏡を見ながら「私はかわいい!」って口に出して自分を励ましています。
そうやって自分の意見や「好き」って気持ちを大切にして毎日を生きていけたら、きっと豊かな人生になるんじゃないかな。
あなたの人生の主役は、あなたしかいません。もっと自分勝手に、欲張って生きていいと思うんです。一回きりの自分の人生、「他人ウケ」より「自分ウケ」を狙っていきましょう!