2023年6月に解散した人気グループ「BiSH」。結成当初からグループを引っ張ってきたセントチヒロ・チッチさんは今、8年間のグループ活動を終え、現在はソロアーティストや俳優として活躍しています。そんなチッチさんの人生のターニングポイントとは?また、チッチさん流の大きな変化の乗り越え方とは?お話を伺いました。
―チッチさんは、幼い頃から将来はアイドルになろうと考えていたのでしょうか?
もともとは映像系の学校に通っていて、テレビ番組の制作に携わりたいと思っていました。裏方として、とんねるずのお二人と仕事することが夢でした。でも、学生時代にスカウトしていただいて、学校の先生に相談したところ「いくつになっても裏方にはなれる。だから、1回、表舞台で挑戦しておいで」と背中を押され、やってみることにしました。
ーアイドルとして活動を始めてから、BiSHに入るまではどんな経緯がありましたか?
BiSHの前に別のグループに所属していて、当時は正統派なアイドルをやっていました。でも、いざやってみると、キラキラした可愛らしい表現を自分がやることになんだか違和感を抱いてしまったんです。お客さんとして観るのはとても好きなのですが。
そんな時に、BiSHのオーディション情報を見かけて「ここに入ったら私の人生が変わるかもしれない」と思いました。直感です。すぐに当時の事務所に相談して、BiSHのオーディションを受けることにしました。
―BiSHに加入してからは、「正統派」の型から抜け出せた感覚はありましたか?
それが、しばらくはBiSHに加入してもなかなか抜け出せなかったんですよね。もちろん衣装や楽曲などは違うかもしれないけれど、キャラクターとして真面目な自分を演じてしまうところがありました。キャプテンだったのもあって、「グループに1人くらい真面目な人がいた方がいいんじゃないか」とか「嫌われないように言われたことをちゃんとやらなきゃ、うまく場を回さなきゃ」ということばかり考えていて。
今思えば、誰かに言われたわけでもなく自分で思い込んでいただけなんですけどね……。自分で自分を苦しめていたように思います。
―そこから抜け出せたのはなぜですか?
私が1人でやることになったダイエット企画があって、それに失敗し、キャプテンを降格することになったのが大きなきっかけです。当時は私もメンバーも若くて想像力がなかったからだと思うのですが、私が苦しんでいるのにみんな何もしてくれないように感じて、「もうどうでもいい!」と思ったんです。
それから、「好かれなきゃ」とか「自分はこうあるべきだ」といった意識がプツッと切れて。「ああ、今までの自分はすごく作り込んだ自分だったんだ」と気付きました。よく言えば吹っ切れた、悪く言えば投げやりになった。自暴自棄なまま、一度はBiSHを辞めようかとも思いましたが、メンバーが「今のありのままのチッチでいれば、きっとそのうち楽しく生きられると思うよ」と言ってくれて、とにかく続けてみることにしました。
その結果、ありのままの自分を好きだと言ってくれるお客さんがいることに気付いて、むしろ自信がついたんです。メンバーにも言いたいことが言えるようになったし、居心地が良くなった。その時から生きやすくなったし、セントチヒロ・チッチの在り方が変わったなと思います。
―2023年6月のBiSH解散はチッチさんにとって大きな変化だったと思います。解散が決まってから当日まではどのように過ごしていましたか?
最初は正直、みんなが解散に納得していることに、納得がいきませんでした。みんながBiSHのことも、それぞれの人生のことも考えた上で出した答えなんだと理解してはいるけれど、感情が勝ってしまってどうしても悔しかった。同時に、目の前にいるメンバーやスタッフさんの心も動かせない私が、その先にいるお客さんの心を動かせるのだろうか、などといろいろ考えてしまいました。
解散を決めてから発表するまでには、コロナの影響もあって2年くらいの時間が空きました。その間は、なんだかお客さんに嘘をついているような気持ちで…… 苦しかったです。
でも、解散日を発表し、ラストスパートを駆け抜ける中で、「納得しないまま自分を生き抜くのが私らしい」と思うようになりました。
それで、メンバーやスタッフさんにも相談して、お客さんにも私はありのままの気持ちを素直に伝えるようにしたんです。嘘をつかずに伝えられたのは、自分のためにもお客さんのためにもよかったのかなと思います。
―解散が決まったことで、ステージへの向き合い方にも変化はありましたか?
変わっていません。いつもありのままの自分でステージに向き合いました。私だけではなくて、BiSHのメンバー全員変わらなかったと思います。感情をありのまま出してるからこそ、誰かが泣いてる日もあれば、誰かが怒っている日もあって、それがBiSHだったから。
―BiSH解散後からは俳優としても活動を始められましたね。音楽活動との違いはどこに感じますか?
お芝居は実はずっとやってみたかったんです。BiSH加入当初から言っていたのですが、ツアーなどもやっていたのでなかなか難しくて。1人になったからこそ、決めつけすぎずにいろいろなことに挑戦してみようと思って、演技の世界に飛び込んでみることにしました。
音楽とお芝居は、私にとっては真逆なくらい違う表現方法です。私の場合は、音楽をするときは等身大の自分を届けることを大切にしています。一方で、お芝居では私ではない人の人生を、知らない世界を表現します。だから、正反対でどちらもおもしろいです。
どちらの表現方法も、年齢も生き方も人生も違ういろいろな人たちを引き込む、それぞれ違った魅力がありますね。
―ソロ活動とグループ活動では、お仕事への向き合い方に変化はありましたか?
今までは、BiSHというグループを背負わなければという気持ちがあって、まとめなきゃとか大事な時は私が伝えなければとよく考えていました。でも、決してそれが苦だったわけではなくて。責任を持ってグループの芯になることが自分の存在意義だと思っていたので、それによって自分が胸を張って生きられていたという面もあります。
そこから1人になったら、自分のことにすごく集中できるようになりました。でも、必ずしもそれが100%ハッピーというわけではなくて、寂しさもあるし、人のために生きることが好きな自分もいて。それに、自分のことを考え始めたら「私って、自分のことが一番見えていないんだ」と悩むこともありました。
ー自分のことがわからない時、どうやって乗り越えていますか?
今も悩んでいます。でも私、仕事としてソロ活動をしていても、人生としては1人で生きていかないって決めているんです。迷ったり悩んだりしたら、強がらずに人に相談する。信頼できる友達などに相談することはもちろん、その日街で出会ったおじいちゃんに相談してみることもあります。人と話してみると、新しい発見が生まれるんです。いろいろな人とディスカッションしてみるのはおすすめです。
ーチッチさんはさまざまな変化を経験されていますが、大きな変化を迎える前に意識していることはありますか?
「やってみなきゃわかんない」ってよく言うけど……って自分でも思っていましたが、本当にそうなんですよ。だから、自分で自分の限界を決めつけずに、まずやってみるということを意識しています。
あと、お母さんに昔言われた「失敗したら2歩下がって散歩すればいい」という言葉も大事にしています。ちょっと間違えたかもと思ったら、一度冷静になって、2歩下がってみる。そうすると、2つに見えた選択肢が実はもっとたくさんあるということに気が付く。視野を広くすると、選択肢が広がって、YESかNOの2つだけじゃないってわかることがよくあります。
ー最後に、これから変化に挑戦したいと思っている人に向けてメッセージをお願いします。
まず、自分を好きになったらいいんじゃないかなと思います。自分を愛してあげないと、 周りの人を愛することもできないから。
自分のことを目を凝らして見つめて、ありのまま生きてみると、今まで気付いていなかった人からの愛情や、決めつけてしまうことの怖さに気付くことができる。そうすると、自分らしく生きることの素晴らしさが見えて、いろいろな変化に挑戦したくなってくると思います。
とはいえ、私もやっと自分を愛せるようになってきたところで、人に愛を伝える方法は模索中です。だから一緒に、まずは自分を愛する方法を考えるところから始めてみませんか?