本人の意思とは無関係に、体が動いたり音や言葉を発したりしてしまう症状『チック』。このチックの症状が1年以上続いた場合、トゥレット症候群と診断されます。今回お話を伺ったへちさんは、幼少期よりトゥレット症候群と共に人生を送ってきました。
つらい症状に悩みながらも、夢を目指して海外で努力を重ねたり、最近では動画配信の活動も積極的に行っているへちさん。どんな風に自分と向き合ってきたのか、へちさんの生きてきた道のりについて語っていただきました。
―へちさんは、子どもの頃、どんな将来を思い描いていましたか?
幼稚園生の頃からバレエを習い始めて、将来はバレリーナになることが夢でした。親に聞いたところ、ダチョウ倶楽部さんが白鳥のコスチュームを着て踊るネタをテレビで見たのをきっかけに、私が自分からバレエを習いたいと言い出したみたいです(笑)
バレエを習っていたおかげもあり、実は幼い頃からマトメージュが身近な存在だったんです。お団子頭にする時に、よくまとめ髪スティックのスーパーホールドを使っていました。小さいし、子どもでも簡単に使えるので、いつもカバンに入れて持ち歩いていました。
―へちさんは、トゥレット症候群のこともオープンにされていますが、当時から症状も出ていたのでしょうか?
自分では覚えていないのですが、両親によると最初に気づいたのは2歳くらいの頃だったそうです。
片足を上げてぴょんぴょんと跳ねちゃう症状があって。私の記憶にあるのは幼稚園生の頃くらいから。鼻を鳴らしたり、首を振るのが止まらなくなったりして、小学生の頃から投薬治療を始めることになりました。
それに、トゥレット症候群は合併症が発症しやすくて、小学生の頃から鬱っぽくなったり、脅迫性障害になったりしやすいという特徴があります。私も色々な合併症が出て辛かったです。
―普段、生活を送ったり、バレリーナの夢に向かう中で、トゥレット症候群の発症によって不安になることはありましたか?
やっぱり将来への不安は常にあって、今でもこの先どうやって生きていこうと考えることはあります。特に私、勉強するときに症状がひどくなるんですよね。だからテストや受験で周りと勝負していくのは無理だろうなと思いました。
一方で、バレエをしているときはあまり症状が出ないんです。だからより一層バレエに打ち込むようになりました。
―学校の友人や先生など、周りの人との関わりで苦労することはありませんでしたか?
小学生の頃は、担任の先生がきちんと私の症状を理解してくれて、クラスメイトにもわかりやすく伝えてくれました。その頃の私はチックがひどく、授業中に叫んでしまうこともあったのですが、他のクラスから苦情が来たときなども、周りの友達たちが守ってくれました。
でも、中学生時代はみんな思春期で尖っている時期でもあるので、「変だ」と言われたり、いじめられたりといったことがありました。私自身も、あまり触れられたくなかったので、自分の症状を隠そうともしていました。だから当時は人と深い関係になるのが難しかったです。恋愛もできないし、誰かと2人で長時間一緒にいるのもきつい。自分の根本となる部分を人に話せないことで、選択肢がどんどん狭くなっていったと思います。
それでも歳を重ねるにつれてだんだん症状も緩和されて、周りも干渉してこなくなったので、前よりは生きやすくなっていったと思います。
―現在は症状が抑えられていると思いますが、どのように治療をされてきたのでしょうか?
私の場合は、高校生の頃にしたマウスピース治療が合っていたみたいです。チック症状も合併症も抑えられてすごく楽になりました。
とはいえ、人によって合う治療法が違うので、みんながマウスピースがよいというわけではありません。投薬が効く方もいますし、行動療法が効く方もいます。
―高校卒業後は、チック症状が抑えられたこともあり、バレエ留学を経験されていますよね。
そうなんです。ずっと海外でバレエを学んでみたいと思っていて、高校3年生の時に海外のバレエ学校のオーディションに参加しました。結果、イギリスのバレエ学校に入学することができました。
バレエ学校って本当に1日中踊っているんですよ。朝8時から夜7時くらいまでずっと踊っていて、私は踊っていれば症状もあまり出ないし、体力も付きました。
―現在は日本に帰国されていますが、どんな経緯があったのでしょうか?
イギリスから帰国したのは20歳の頃。体調を崩してしまって、帰国せざるを得なくなってしまいました。それからしばらくは寝たきりの状態になってしまいました。今も本調子ではないのですが、ペースを調整しながら体調を整えているところです。
―帰国後、TikTokやYouTubeなどで動画配信を始められていますが、どんなきっかけがあったのでしょうか?
体調の問題はありつつも、何か自分にできることはないかなと探していました。それで、最初はブロガーやライバーをしてみようと思ったのですが、あまり向いていなかったようで。それで、ダンスだったら好きだし、すぐに覚えられると思ってダンス動画を作ってみることにしました。
―動画内ではトゥレット症候群に関する発信もされていますが、オープンにすることに不安はありませんでしたか?
トゥレット症候群のことをもっと知ってほしいという思いはあったので、最初からいつかオープンにしようとは思っていました。ただ、最初から病気のことを明かしてしまうと、同じ症状を持つ人やそのご家族などにばかり動画が届いてしまうのではないかという懸念がありました。それも大事ですが、病気に無関心な人たちにも知ってほしいという思いがあったので、最初はシンプルにダンス動画だけをアップしていました。結局、フォロワーさんが2〜3万人くらいになってから病気のことを明かしました。
―動画配信を始めたことによって自分が変わったと感じる部分はありますか?
たくさんあります。以前はあまり自分のことや病気のことを人には話せないタイプだったのですが、動画で公表したことで、想像よりも周りからの理解は得られるんだと気づきました。勇気を持って発信してよかったなと思います。
それに、当事者の方々からポジティブな反応が来るのも嬉しいです。私の存在に勇気をもらったと言ってくださる方もいて、逆に私も勇気付けられます。
―へちさんはご自身の「自分らしさ」を何だと感じていますか?
根っこの性格は明るい方ですが、病気であることやそれによって暗い性格になる部分も自分だなと思っています。学生時代は、良い面だけを「自分らしさ」と捉えて、悪い面は認めたくない自分もいました。周りの人に対しても明るい面だけを見せていればうまく付き合っていけるんじゃないか、明るく振舞っていればいつか暗い部分はなくなるんじゃないか、と。
でも、そうやって誤魔化していたらある時ボキッと心が折れてしまって。辛い気持ちや苦しい気持ちもきちんと認めて、自分の心に耳を傾けてあげないと人間は持たないんだなとわかりました。だから、今では、調子の良い時も悪い時も全部「自分らしさ」として愛してあげることが大事だなと思っています。
―今後は、どんなことに挑戦していきたいですか?
よりトゥレット症候群の認知が広がるように、活動していきたいなと思っています。患者数も少ないし、今はまだ認知が少ないこともあり、治療法の開発が進んでいないんです。でも、いつか治る病気になったらいいなって。そのために、私ももっとこの病気を知ってもらうきっかけを作れるように頑張りたいです。
ー最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
今年のマトメージュのキャッチコピー「私たちは、何にだってなれる。」を聞いた時、確かに自分次第でどんな自分にもなれるよねと思いました。私自身は、病気で色々と諦めてきたこともあるので「誰でも、なんでもできる!」とは言えません。だけど、自分の心の持ち方で、自分を変えることはできます。
だから、もし何か迷っていることがあるなら絶対チャレンジした方が良いと思います。もちろん周りに大きく迷惑がかかることは考慮する必要があるけれど、ちょっと周りの目が気になるとか、親に反対されているとか、そういう時は、もう一度自分の心に素直になってみると良いのかなって。少しくらい失敗しても、どうにかなりますから!自分の心に嘘をつかずに生きていくことが一番大事です。